ことを言った顔色《がんしょく》。
 美女《たおやめ》はその顔を差覗《さしのぞ》く風情《ふぜい》して、瞳《ひとみ》を斜めに衝《つ》と流しながら、華奢《きゃしゃ》な掌《たなそこ》を軽《かろ》く頬に当てると、紅《くれない》がひらりと搦《から》む、腕《かいな》の雪を払う音、さらさらと衣摺《きぬず》れして、
「真個《まったく》は、寝ていましたの……」
「何んですッて、」
 と苦笑《にがわらい》。
「でも爾時《そのとき》は寝ていやしませんの。貴下《あなた》起きていたんですよ。あら、」
 とやや調子高《ちょうしだか》に、
「何を言ってるんだか分らないわねえ。」
 馴々《なれなれ》しくいうと、急に胸を反《そ》らして、すッきりとした耳許《みみもと》を見せながら、顔を反向《そむ》けて俯向《うつむ》いたが、そのまま身体《からだ》の平均を保つように、片足をうしろへ引いて、立直《たちなお》って、
「否《いいえ》、寝ていたんじゃなかったんですけども、貴下《あなた》のお姿を拝みますと、急に心持《こころもち》が悪くなって、それから寝たんです。」
「これは酷《ひど》い、酷《ひど》いよ、貴女《あなた》は。」
 棄《す》て
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