ると、美しい瞳《ひとみ》が動いて、
「失礼を……」
と唯《ただ》莞爾《にっこり》する。
「はあ、」と言ったきり、腰のまわり、遁《に》げ路《みち》を見て置くのである。
「貴下《あなた》お呼び留《と》め申しまして、」
とふっくりとした胸を上げると、やや凭《もた》れかかって土手に寝るようにしていた姿を前へ。
「はあ、何《なに》、」
真正直《まっしょうじき》な顔をして、
「私ですか、」と空とぼける。
「貴下《あなた》のようなお姿だ、と聞きましてございます。先刻《せんこく》は、真《まこと》に御心配下さいまして、」
徐《やお》ら、雪のような白足袋《しろたび》で、脱ぎ棄てた雪駄《せった》を引寄《ひきよ》せた時、友染《ゆうぜん》は一層はらはらと、模様の花が俤《おもかげ》に立って、ぱッと留南奇《とめき》の薫《かおり》がする。
美女《たおやめ》は立直《たちなお》って、
「お蔭様《かげさま》で災難を、」
と襟首《えりくび》を見せてつむりを下げた。
爾時《そのとき》独武者《ひとりむしゃ》、杖《ステッキ》をわきばさみ、兜《かぶと》を脱いで、
「ええ、何んですかな、」と曖昧《あいまい》。
美女《た
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