おやめ》は親しげに笑いかけて、
「ほほ、私《わたし》はもう災難と申します。災難ですわ、貴下《あなた》。あれが座敷へでも入りますか、知らないでいて御覧なさいまし、当分|家《うち》を明渡《あけわた》して、何処《どこ》かへ参らなければなりませんの。真個《ほんとう》にそうなりましたら、どうしましょう。お庇様《かげさま》で助《たすか》りましてございますよ。ありがとう存じます。」
「それにしても、私と極《き》めたのは、」
 と思うことが思わず口へ出た。
 これは些《ち》と調子はずれだったので、聞き返すように、
「ええ、」

       二十七

「先刻《さっき》の、あの青大将《あおだいしょう》の事なんでしょう。それにしても、よく私だというのが分りましたね、驚きました。」
 と棄鞭《すてむち》の遁構《にげがま》えで、駒の頭《かしら》を立直《たてなお》すと、なお打笑《うちえ》み、
「そりゃ知れますわ。こんな田舎《いなか》ですもの。そして御覧の通り、人通りのない処《ところ》じゃありませんか。
 貴下《あなた》のような方《かた》の出入《ではいり》は、今朝《けさ》ッからお一人しかありませんもの。丁《ちゃん
前へ 次へ
全57ページ中13ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング