渠等《かれら》女たちに、フト思い較《くら》べながら指すと、
「かっぱ。」
 と語音の調子もある……口から吹飛ばすように、ぶっきらぼうに古女房が答えた。
「ああ、かっぱ。」
「ほほほ。」
 かっぱとかっぱが顱合《はちあわ》せをしたから、若い女は、うすよごれたが姉《あね》さんかぶり、茶摘、桑摘む絵の風情の、手拭の口に笑《えみ》をこぼして、
「あの、川に居《お》ります可恐《こわ》いのではありませんの、雨の降る時にな、これから着ますな、あの色に似ておりますから。」
「そんで幾干《いくら》やな。」
 古女房は委細構わず、笊の縁に指を掛けた。
「そうですな、これでな、十銭下さいまし。」
「どえらい事や。」
 と、しょぼしょぼした目を※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みは》った。睨《にら》むように顔を視《なが》めながら、
「高いがな高いがな――三銭や、えっと気張って。……三銭が相当や。」
「まあ、」
「三銭にさっせえよ。――お前《めえ》もな、青草ものの商売や。お客から祝儀とか貰うようには行《ゆ》かんぞな。」
「でも、」
 と蕈《きのこ》が映す影はないのに、女の瞼《まぶた》はほんのりする。

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