は銀杏返《いちょうがえし》が乱れているが、毛の艶《つや》は濡れたような、姿のやさしい、色の白い二十《はたち》あまりの女が彳《たたず》む。
蕈は軸を上にして、うつむけに、ちょぼちょぼと並べてあった。
実は――前年一度この温泉に宿った時、やっぱり朝のうち、……その時は町の方を歩行《ある》いて、通りの煮染屋《にしめや》の戸口に、手拭《てぬぐい》を頸《くび》に菅笠《すげがさ》を被《かぶ》った……このあたり浜から出る女の魚売が、天秤《てんびん》を下《おろ》した処に行《ゆ》きかかって、鮮《あたら》しい雑魚に添えて、つまといった形で、おなじこの蕈を笊に装ったのを見た事があったのである。
銀杏の葉ばかりの鰈《かれい》が、黒い尾でぴちぴちと跳ねる。車蝦《くるまえび》の小蝦は、飴色《あめいろ》に重《かさな》って萌葱《もえぎ》の脚をぴんと跳ねる。魴※[#「魚+弗」、第3水準1−94−37]《ほうぼう》の鰭《ひれ》は虹《にじ》を刻み、飯鮹《いいだこ》の紫は五つばかり、断《ちぎ》れた雲のようにふらふらする……こち、めばる、青、鼠、樺色《かばいろ》のその小魚《こうお》の色に照映《てりは》えて、黄なる蕈は
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