子戸《がらすど》を引きめぐらした、いいかげんハイカラな雑貨店が、細道にかかる取着《とッつき》の角にあった。私は靴だ。宿の貸下駄で出て来たが、あお桐の二本歯で緒が弛《ゆる》んで、がたくり、がたくりと歩行《ある》きにくい。此店《ここ》で草履を見着けたから入ったが、小児《こども》のうち覚えた、こんな店で売っている竹の皮、藁《わら》の草履などは一足もない。極く雑なのでも裏つきで、鼻緒が流行のいちまつと洒落《しゃ》れている。いやどうも……柿の渋は一月半おくれても、草履は駈足《かけあし》で時流に追着く。
「これを貰《もら》いますよ。」
店には、ちょうど適齢前の次男坊といった若いのが、もこもこの羽織を着て、のっそりと立っていた。
「貰って穿《は》きますよ。」
と断って……早速ながら穿替えた、――誰も、背負《しょ》って行《ゆ》く奴もないものだが、手一つ出すでもなし、口を利くでもなし、ただにやにやと笑って見ているから、勢い念を入れなければならなかったので。……
「お幾干《いくら》。」
「分りませんなあ。」
「誰かに聞いてくれませんか。」
若いのは、依然としてにやにやで、
「誰も今|居《お》らんので
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