らふらと足のようなものがついて取れる。頭をたたいて、
「飯蛸より、これは、海月《くらげ》に似ている、山の海月だね。」
「ほんになあ。」
じゃあま、あばあ、阿媽《おっかあ》が、いま、(狐の睾丸《がりま》)ぞと詈《ののし》ったのはそれである。
が、待て――蕈狩《たけがり》、松露取は闌《たけなわ》の興に入《い》った。
浪路は、あちこち枝を潜《くぐ》った。松を飛んだ、白鷺《しらさぎ》の首か、脛《はぎ》も見え、山鳥の翼の袖も舞った。小鳥のように声を立てた。
砂山の波が重《かさな》り重って、余りに二人のほかに人がない。――私はなぜかゾッとした。あの、翼、あの、帯が、ふとかかる時、色鳥とあやまられて、鉄砲で撃たれはしまいか。――今朝も潜水夫のごときしたたかな扮装《いでたち》して、宿を出た銃猟家《てっぽううち》を四五人も見たものを。
遠くに、黒い島の浮いたように、脱ぎすてた外套《がいとう》を、葉越に、枝越に透《すか》して見つけて、「浪路さん――姉さん――」と、昔の恋に、声がくもった。――姿を見失ったその人を、呼んで、やがて、莞爾《にっこり》した顔を見た時は、恋人にめぐり逢った、世にも嬉しさを
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