り込まれて、低声《こごえ》で唄った。
「ああ、ありました。」
「おお、あった。あった。」
 ふと見つけたのは、ただ一本、スッと生えた、侏儒《いっすんぼし》が渋蛇目傘《しぶじゃのめ》を半びらきにしたような、洒落《しゃれ》ものの茸であった。
「旦那さん、早く、あなた、ここへ、ここへ。」
「や、先刻見た、かっぱだね。かっぱ占地茸……」
「一つですから、一本占地茸とも言いますの。」
 まず、枯松葉を笊に敷いて、根をソッと抜いて据えたのである。
 続いて、霜こしの黄茸を見つけた――その時の歓喜を思え。――真打だ。本望だ。
「山の神さんが下さいました。」
 浪路はふたたび手を合した。
「嬉しく頂戴をいたします。」
 私も山に一礼した。
 さて一つ見つかると、あとは女郎花《おみなえし》の枝ながらに、根をつらねて黄色に敷く、泡のようなの、針のさきほどのも交《まじ》った。松の小枝を拾って掘った。尖《さき》はとがらないでも、砂地だからよく抜ける。
「松露よ、松露よ、――旦那さん。」
「素晴しいぞ。」
 むくりと砂を吹く、飯蛸《いいだこ》の乾《から》びた天窓《あたま》ほどなのを掻くと、砂を被《かぶ》って、ふ
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