だつ、この優しい女の心づかいを知ってるか。
――あれから菜畑を縫いながら、更に松山の松の中へ入ったが、山に山を重ね、砂に砂、窪地の谷を渡っても、余りきれいで……たまたま落ちこぼれた松葉のほかには、散敷いた木《こ》の葉もなかった。
この浪路が、気をつかい、心を尽した事は言うまでもなかろう。
阿媽、これを知ってるか。
たちまち、口紅のこぼれたように、小さな紅茸《べにたけ》を、私が見つけて、それさえ嬉しくって取ろうとするのを、遮って留めながら、浪路が松の根に気も萎《な》えた、袖褄《そでつま》をついて坐った時、あせった頬は汗ばんで、その頸脚《えりあし》のみ、たださしのべて、討たるるように白かった。
阿媽、それを知ってるか。
薄色の桃色の、その一つの紅茸を、灯《ともしび》のごとく膝の前に据えながら、袖を合せて合掌して、「小松山さん、山の神さん、どうぞ茸《きのこ》を頂戴な。下さいな。」と、やさしく、あどけない声して言った。
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「小松山さん、山の神さん、
どうぞ、茸を頂戴な。
下さいな。――」
[#ここで字下げ終わり]
真の心は、そのままに唄である。
私もつ
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