背《せな》も、もう見えぬ。
「しかし、様子は、霜こしの黄茸《きだけ》が化けて出たようだったぜ。」
「あれ、もったいない。……旦那さん、あなた……」
五
「わ、何じゃい、これは。」
「霜こし、黄い茸《たけ》。……あはは、こんなばば蕈《きのこ》を、何の事じゃい。」
「何が松露や。ほれ、こりゃ、破ると、中が真黒《まっくろ》けで、うじゃうじゃと蛆《うじ》のような筋のある(狐の睾丸《がりま》)じゃがいの。」
「旦那、眉毛に唾《つば》なとつけっしゃれい。」
「えろう、女狐に魅《つま》まれたなあ。」
「これ、この合羽占地茸《かっぱしめじ》はな、野郎の鼻毛が伸びたのじゃぞいな。」
戻道。橋で、ぐるりと私たちを取巻いたのは、あまのじゃくを訛《なま》ったか、「じゃあま。」と言い、「おんじゃ。」と称《とな》え、「阿婆《あばあ》。」と呼ばるる、浜方|屈竟《くっきょう》の阿婆摺媽々《あばずれかかあ》。町を一なめにする魚売の阿媽徒《おっかあてあい》で。朝商売《あさあきない》の帰りがけ、荷も天秤棒も、腰とともに大胯《おおまた》に振って来た三人づれが、蘆の横川にかかったその橋で、私の提げた笊《ざる
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