配をさっしゃるな。」
「お爺さん、失礼ですが、水と山と違いました。」
 私も笑った。
「茸だの、松露だのをちっとばかり取りたいのですが、霜こしなんぞは、どの辺にあるでしょう。御存じはありませんか。」
「ほん、ほん。」
 と黄饅頭を、点頭のままに動かして、
「茸――松露――それなら探さねば爺にかて分らぬがいやい。おはは、姉さんは土地の人じゃ。若いぱっちりとした目は、爺などより明《あきら》かじゃ。よう探いてもらわっしゃい。」
「これはお隙《ひま》づいえ、失礼しました。」
「いや、何の嵩高《かさだか》な……」
「御免。」
「静《しずか》にござれい。――よう遊べ。」
「どうかしたか、――姉さん、どうした。」
「ああ、可恐《こわ》い。……勿体ないようで、ありがたいようで、ああ、可恐《こお》うございましたわ。」
「…………」
「いまのは、山のお稲荷様か、潟の竜神様でおいでなさいましょう。風のない、うららかな、こんな時にはな、よくこの辺をおあるきなさいますそうですから。」
 いま畚を引上げた、水の音はまだ響くのに、翁は、太郎虫、米搗虫の靄《もや》のあなたに、影になって、のびあがると、日南《ひなた》の
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