て、にやりとした。
思わず、その言《ことば》に連れて振返ると、つれの浪路は、尾花で姿を隠すように、私の外套で顔を横に蔽《おお》いながら、髪をうつむけになっていた。湖の小波《さざなみ》が誘うように、雪なす足の指の、ぶるぶると震えるのが見えて、肩も袖も、その尾花に靡《なび》く。……手につまさぐるのは、真紅の茨《いばら》の実で、その連《つらな》る紅玉《ルビィ》が、手首に珊瑚《さんご》の珠数《じゅず》に見えた。
「ほん、ほん。こなたは、これ。(や、爺《じじ》い……その鮒をば俺に譲れ。)と、姉《ねえ》さんと二人して、潟に放いて、放生会《ほうじょうえ》をさっしゃりたそうな人相じゃがいの、ほん、ほん。おはは。」
と笑いながら、ちょろちょろ滝に、畚をぼちゃんとつけると、背を黒く鮒が躍って、水音とともに鰭《ひれ》が鳴った。
「憂慮《きづかい》をさっしゃるな。割《さ》いて爺《じい》の口に啖《くら》おうではない。――これは稲荷殿《いなりでん》へお供物に献ずるじゃ。お目に掛けましての上は、水に放すわいやい。」
と寄せた杖が肩を抽《ぬ》いて、背を円く流《ながれ》を覗いた。
「この魚《うお》は強いぞ。……心
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