せぬぞ。(と強く言って)……渡らずと、橋の詰《つめ》をの、ちと後《あと》へ戻るようなれど、左へ取って、小高い処を上《あが》らっしゃれ。そこが尋ねる実盛塚《さねもりづか》じゃわいやい。」
 と杖を直す。
 安宅《あたか》の関の古蹟とともに、実盛塚は名所と聞く。……が、私は今それをたずねるのではなかった。道すがら、既に路傍《みちばた》の松山を二処《ふたとこ》ばかり探したが、浪路がいじらしいほど気を揉《も》むばかりで、茸も松露も、似た形さえなかったので、獲ものを人に問うもおかしいが、且《かつ》は所在なさに、連《つれ》をさし置いて、いきなり声を掛けたのであったが。
「いいえ、実盛塚へは――行こうかどうしようかと思っているので、……実はおたずね申しましたのは。」
「ほん、ほん、それでは、これじゃろうの。」
 と片手の畚を動かすと、ひたひたと音がして、ひらりと腹を飜《かえ》した魚《うお》の金色《こんじき》の鱗《うろこ》が光った。
「見事な鯉《こい》ですね。」
「いやいや、これは鮒《ふな》じゃわい。さて鮒じゃがの……姉《あね》さんと連立たっせえた、こなたの様子で見ればや。」
 と鼻の下を伸《のば》し
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