に似た、饅頭形《まんじゅうがた》の黄なる帽子を頂き、袖なしの羽織を、ほかりと着込んで、腰に毛巾着《けぎんちゃく》を覗《のぞ》かせた……片手に網のついた畚《びく》を下げ、じんじん端折《ばしょり》の古足袋に、藁草履《わらぞうり》を穿《は》いている。
「少々、ものを伺います。」
 ゆるい、はけ水の小流《こながれ》の、一段ちょろちょろと落口を差覗いて、その翁の、また一息|憩《やす》ろうた杖に寄って、私は言った。
 翁は、頭《ず》なりに黄帽子を仰向《あおむ》け、髯《ひげ》のない円顔の、鼻の皺《しわ》深く、すぐにむぐむぐと、日向《ひなた》に白い唇を動かして、
「このの、私《わし》がいま来た、この縦筋を真直《まっす》ぐに、ずいずいと行かっしゃると、松原について畑を横に曲る処があるでの。……それをどこまでも行かせると、沼があっての。その、すぼんだ処に、土橋が一つ架《かか》っているわい。――それそれ、この見当じゃ。」
 と、引立てるように、片手で杖を上げて、釣竿《つりざお》を撓《た》めるがごとく松の梢《こずえ》をさした。
「じゃがの。」
 と頭《かぶり》を緩く横に掉《ふ》って、
「それをば渡ってはなりま
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