こ》のように思われた。――石になった恋がある。少年は茸になった。「関弥。」ああ、勿体ない。……余りの様子を、案じ案じ捜しに出た父に、どんと背中を敲《たた》かれて、ハッと思った私は、新聞の中から、天狗《てんぐ》の翼《はね》をこぼれたようにぽかんと落ちて、世に返って、往来《ゆきき》の人を見、車を見、且つ屋根越に遠く我が家の町を見た。――
なつかしき茸狩よ。
二十年あまり、かくてその後、茸狩らしい真似をさえする機会がなかったのであった。
「……おともしますわ。でも、大勢で取りますから、茸《きのこ》があればいいんですけど……」
湯の町の女は、先に立って導いた。……
湖のなぐれに道を廻《めぐ》ると、松山へ続く畷《なわて》らしいのは、ほかほかと土が白い。草のもみじを、嫁菜のおくれ咲が彩って、枯蘆《かれあし》に陽が透通る。……その中を、飛交うのは、琅※[#「王+干」、第3水準1−87−83]《ろうかん》のような螽《いなご》であった。
一つ、別に、この畷を挟んで、大なる潟が湧《わ》いたように、刈田を沈め、鳰《かいつぶり》を浮かせたのは一昨日の夜《よ》の暴風雨の余残《なごり》と聞いた。蘆の穂に
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