さもしいようだが、対手《あいて》が私だから仕方がない。「ええ、」と言うのに押被《おっかぶ》せて、「馬鹿々々しく安いではないか。」と義憤を起すと、せめて言いねの半分には買ってもらいたかったのだけれど、「旦那さんが見てであったしな。……」と何か、私に対して、値の押問答をするのが極《きまり》が悪くもあったらしい口振《くちぶり》で。……「失礼だが、世帯の足《たし》になりますか。」ときくと、そのつもりではあったけれど、まるで足りない。煩っていなさる母さんの本復を祈って願掛けする、「お稲荷様《いなりさま》のお賽銭《さいせん》に。」と、少しあれたが、しなやかな白い指を、縞目《しまめ》の崩れた昼夜帯へ挟んだのに、さみしい財布がうこん色に、撥袋《ばちぶくろ》とも見えず挟《はさま》って、腰帯ばかりが紅《べに》であった。「姉さんの言い値ほどは、お手間を上げます。あの松原は松露があると、宿で聞いて、……客はたて込む、女中は忙しいし、……一人で出て来たが覚束《おぼつか》ない。ついでに、いまの(霜こし)のありそうな処へ案内して、一つでも二つでも取らして下さい、……私は茸狩《たけがり》が大好き。――」と言って、言う
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