お民はほろりとしたのである。あるじはあえて莞爾《にこ》やかに、
「恐しいもんだ、その癖両に何升どこは、この節かえって覚えました。その頃は、まったくです、無い事は無いにしろ、幾許《いくら》するか知らなかった。
皆《みんな》、親のお庇《かげ》だね。
その阿母《おふくろ》が、そうやって、お米は? ッて尋ねると、晩まであるよ、とお言いなさる。
翌日《あす》のが無いと言われるより、どんなに辛かったか知れません。お民さん。」
と呼びかけて、もとより答を待つにあらず。
「もう、その度にね、私はね、腰かけた足も、足駄の上で、何だって、こう脊が高いだろう、と土間へ、へたへたと坐《すわ》りたかった。」
「まあ、貴下《あなた》、大抵じゃなかったのねえ。」
フトその時、火鉢のふちで指が触れた。右の腕《かいな》はつけ元まで、二人は、はっと熱かったが、思わず言い合わせたかのごとく、鉄瓶に当って見た。左の手は、ひやりとした。
「謹さん、沸《わか》しましょうかね。」と軽《かろ》くいう。
「すっかり忘れていた、お庇さまで火もよく起ったのに。」
「お湯があるかしら。」
と引っ立てて、蓋《ふた》を取って、燈《あ
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