どう工面の成ろうわけはないのに、一ツ売り二つ売り、一日だてに、段々煙は細くなるし、もう二人が消えるばかりだから、世間体さえ構わないなら、身体《からだ》一ツないものにして、貴下を自由にしてあげたい、としょっちゅうそう思っていらしったってね。お互に今聞いても、身ぶるいが出るじゃありませんか。」
と顔を上げて目を合わせる、両人の手は左右から、思わず火鉢を圧《おさ》えたのである。
「私はまた私で、何です、なまじ薄髯《うすひげ》の生えた意気地のない兄哥《あにい》がついているから起って、相応にどうにか遣繰《やりく》って行《ゆ》かれるだろう、と思うから、食物《くいもの》の足りぬ阿母を、世間でも黙って見ている。いっそ伜《せがれ》がないものと極《きま》ったら、たよる処も何にもない。六十を越した人を、まさか見殺しにはしないだろう。
やっちまおうかと、日に幾度《いくたび》考えたかね。
民さんも知っていましょう、あの年は、城の濠《ほり》で、大層|投身者《みなげ》がありました。」
同一年《おないどし》の、あいやけは、姉さんのような頷《うなず》き方。
「ああ。」
三
「確か六七人もあった
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