さつ》痛み入りますこと。お勝手からこちらまで、随分遠方でござんすからねえ。」
「憚り様ね。」
「ちっとも憚り様なことはありやしません。謹さん、」
「何ね、」
「貴下《あなた》、その(憚り様ね)を、端書を読む、つなぎに言ってるのね。ほほほほ。」
 謹さんも莞爾《にっこり》して、
「お話しなさい。」
「難有《ありがと》う、」
「さあ、こちらへ。」
「はい、誠にどうも難有う存じます、いいえ、どうぞもう、どうぞ、もう。」
「早速だ、おやおや。」
「大分丁寧でございましょう。」
「そんな皮肉を言わないで、坊やは?」
「寝ました。」
「母は?」
「行火《あんか》で、」と云って、肱《ひじ》を曲げた、雪なす二の腕、担いだように寝て見せる。
「貴女《あなた》にあまえているんでしょう。どうして、元気な人ですからね、今時行火をしたり、宵の内から転寝《うたたね》をするような人じゃないの。鉄は居ませんか。」
「女中さんは買物に、お汁《みおつけ》の実を仕入れるのですって。それから私がお道楽、翌日《あした》は田舎料理を達引《たてひ》こうと思って、ついでにその分も。」
「じゃ階下《した》は寂《さみ》しいや、お話しなさ
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