貴下が来て、お留めなさると思ってね、それを便りにしていますよ。
まあ、同じようで不思議だから、これから別れて帰りましたら、私もまた、月夜にお濠端を歩行《ある》きましょう。そして貴下、謹さんのお姿が、そこへ出るのを見ましょうよ。」
と差俯向《さしうつむ》いた肩が震えた。
あるじは、思わず、火鉢なりに擦り寄って、
「飛んだ事を、串戯《じょうだん》じゃありません、そ、そ、そんな事をいって、譲《ゆずる》(小児の名)さんをどうします。」
「だって、だって、貴下がその年、その思いをしているのに、私はあの児《こ》を拵《こしら》えました。そんな、そんな児を構うものか。」
とすねたように鋭くいったが、露を湛《たた》えた花片《はなびら》を、湯気やなぶると、笑《えみ》を湛え、
「ようござんすよ。私はお濠を楽《たのし》みにしますから。でも、こんなじゃ、私の影じゃ、凄《すご》い死神なら可《い》いけれど、大方|鼬《いたち》にでも見えるでしょう。」
と投げたように、片身を畳に、褄《つま》も乱れて崩折《くずお》れた。
あるじは、ひたと寄せて、押《おさ》えるように、棄《す》てた女の手を取って、
「お民さん。
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