世話をしようと思ったほどで、またそれに違いはなかったんですもの。
実際私は、貴女のために活《い》きていたんだ。
そして、お民さん。」
あるじが落着いて静《しずか》にいうのを、お民は激しく聞くのであろう、潔白なるその顔《かんばせ》に、湧上《わきのぼ》るごとき血汐《ちしお》の色。
「切迫詰《せっぱつま》って、いざ、と首の座に押直る時には、たとい場処《ところ》が離れていても、きっと貴女の姿が来て、私を助けてくれるッて事を、堅くね、心の底に、確《たしか》に信仰していたんだね。
まあ、お民さん許《とこ》で夜更《よふか》しして、じゃ、おやすみってお宅を出る。遅い時は寝衣《ねまき》のなりで、寒いのも厭《いと》わないで、貴女が自分で送って下さる。
門《かど》を出ると、あの曲角あたりまで、貴女、その寝衣のままで、暗《やみ》の中まで見送ってくれたでしょう。小児《こども》が奥で泣いている時でも、雨が降っている時でも、ずッと背中まで外へ出して。
私はまた、曲り角で、きっと、密《そっ》と立停《たちど》まって、しばらく経《た》って、カタリと枢《くるる》のおりるのを聞いたんです。
その、帰り途《みち》
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