《やど》の方の親類が、ああの、こうのって、面倒だから、それにつけても早々帰れじゃありませんか。また貴下《あなた》を置いて、他《ほか》に私の身についた縁者といってはないんですからね。どうせ帰れば近所近辺、一門一類が寄って集《たか》って、」
 と婀娜《あだ》に唇の端を上げると、顰《ひそ》めた眉を掠《かす》めて落ちた、鬢《びん》の毛を、焦《じれ》ったそうに、背《うしろ》へ投げて掻上《かきあ》げつつ、
「この髪を※[#「てへん+劣」、第3水準1−84−77]《むし》りたくなるような思いをさせられるに極《きま》ってるけれど、東京へ来たら、生意気らしい、気の大きくなった上、二寸切られるつもりになって、度胸を極《き》めて、伯母さんには内証《ないしょ》ですがね、これでも自分で呆《あき》れるほど、了簡《りょうけん》が据《すわ》っていますけれど、だってそうは御厄介になっても居られませんもの。」
「いつまでも居て下さいよ。もう、私は、女房なんぞ持とうより、貴女に遊んでいてもらう方が、どんなに可《い》いから知れやしない。」
 と我儘《わがまま》らしく熱心に言った。
 お民は言《ことば》を途切らしつ、鉄瓶はやや
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