どうしても手が届かないがちになるんです。伯母さんも、もう今じゃ、蚊帳よりお嫁が欲《ほし》いんですよ。」
 あるじは、屹《きっ》と頭《かぶり》を掉《ふ》った。
「いいえ、よします。」
「なぜですね、謹さん。」と見上げた目に、あえて疑《うたがい》の色はなく、別に心あって映ったのであった。
「なぜというと議論になります。ただね、私は欲くないんです。
 こういえば、理窟もつけよう、またどうこうというけれどね、年よりのためにも他人の交《まじ》らない方が気楽で可《い》いかも知れません。お民さん、貴女《あなた》がこうやって遊びに来てくれたって、知らない婦人《おんな》が居ようより、阿母《おふくろ》と私ばかりの方が、御馳走《ごちそう》は届かないにした処で、水入らずで、気が置けなくって可いじゃありませんか。」
「だって、謹さん、私がこうして居いいために、一生|貴方《あなた》、奥さんを持たないでいられますか。それも、五年と十年と、このままで居たいたって、こちらに居られます身体《からだ》じゃなし、もう二週間の上になったって、五日目ぐらいから、やいやい帰れって、言って来て、三度めに来た手紙なんぞの様子じゃ、良人
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