、破《やぶ》れて煤《すゝ》けたのを貼替《はりか》へたので、新規《しんき》に出來《でき》た店《みせ》ではない。柳屋《やなぎや》は土地《とち》で老鋪《しにせ》だけれども、手廣《てびろ》く商《あきなひ》をするのではなく、八九十|軒《けん》もあらう百|軒《けん》足《た》らずの此《こ》の部落《ぶらく》だけを花主《とくい》にして、今代《こんだい》は喜藏《きざう》といふ若《わか》い亭主《ていしゆ》が、自分《じぶん》で賣《う》りに※[#「えんにょう+囘」、第4水準2−12−11]《まは》るばかりであるから、商《あきなひ》に出《で》た留守《るす》の、晝過《ひるすぎ》は森《しん》として、柳《やなぎ》の蔭《かげ》に腰障子《こししやうじ》が閉《し》まつて居《ゐ》る、樹《き》の下《した》、店《みせ》の前《まへ》から入口《いりくち》へ懸《か》けて、地《ぢ》の窪《くぼ》むだ、泥濘《ぬかるみ》を埋《う》めるため、一面《いちめん》に貝殼《かひがら》が敷《し》いてある、白《しろ》いの、半分《はんぶん》黒《くろ》いの、薄紅《うすべに》、赤《あか》いのも交《まじ》つて堆《うづたか》い。
 隣屋《となり》は此《この》邊《へん》
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