《ま》に寢《ね》ながら、佛造《ほとけづく》つた額《ひたひ》を上《あ》げて、汗《あせ》だらけだけれども目《め》の涼《すゞ》しい、息子《せがれ》が地藏眉《ぢざうまゆ》の、愛《あい》くるしい、若《わか》い顏《かほ》を見《み》て、嬉《うれ》しさうに頷《うなづ》いて、
「晩《ばん》にや又《また》柳屋《やなぎや》の豆腐《とうふ》にしてくんねえよ。」
「あい、」といつて苫《とま》を潛《くゞ》つて這《は》ふやうにして船《ふね》から出《で》た、與吉《よきち》はづツと立《た》つて板《いた》を渡《わた》つた。向《むか》うて筋違《すぢつかひ》、角《かど》から二|軒目《けんめ》に小《ちひ》さな柳《やなぎ》の樹《き》が一|本《ぽん》、其《そ》の低《ひく》い枝《えだ》のしなやかに垂《た》れた葉隱《はがく》れに、一|間口《けんぐち》二|枚《まい》の腰障子《こししやうじ》があつて、一|枚《まい》には假名《かな》、一|枚《まい》には眞名《まな》で豆腐《とうふ》と書《か》いてある。柳《やなぎ》の葉《は》の翠《みどり》を透《す》かして、障子《しやうじ》の紙《かみ》は新《あた》らしく白《しろ》いが、秋《あき》が近《ちか》いから
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