二
其《それ》から日《ひ》一|日《にち》おなじことをして働《はたら》いて、黄昏《たそがれ》かゝると日《ひ》が舂《うすづ》き、柳《やなぎ》の葉《は》が力《ちから》なく低《た》れて水《みづ》が暗《くら》うなると汐《しほ》が退《ひ》く、船《ふね》が沈《しづ》むで、板《いた》が斜《なゝ》めになるのを渡《わた》つて家《いへ》に歸《かへ》るので。
留守《るす》には、年寄《としよ》つた腰《こし》の立《た》たない與吉《よきち》の爺々《ちやん》が一人《ひとり》で寢《ね》て居《ゐ》るが、老後《らうご》の病《やまひ》で次第《しだい》に弱《よわ》るのであるから、急《きふ》に容體《ようだい》の變《かは》るといふ憂慮《きづかひ》はないけれども、與吉《よきち》は雇《やと》はれ先《さき》で晝飯《ひるめし》をまかなはれては、小休《こやすみ》の間《あひだ》に毎日《まいにち》一|度《ど》づつ、見舞《みまひ》に歸《かへ》るのが例《れい》であつた。
「ぢやあ行《い》つて來《く》るぜ、父爺《ちやん》。」
與平《よへい》といふ親仁《おやぢ》は、涅槃《ねはん》に入《い》つたやうな形《かたち》で、胴《どう》の間
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