なり、水草《みづくさ》の隱《かく》れるに從《したが》うて、船《ふね》が浮上《うきあが》ると、堤防《ていばう》の遠方《をちかた》にすく/\立《た》つて白《しろ》い煙《けむり》を吐《は》く此處彼處《こゝかしこ》の富家《ふか》の煙突《えんとつ》が低《ひく》くなつて、水底《みづそこ》の其《そ》の缺擂鉢《かけすりばち》、塵芥《ちりあくた》、襤褸切《ぼろぎれ》、釘《くぎ》の折《をれ》などは不殘《のこらず》形《かたち》を消《け》して、蒼《あを》い潮《しほ》を滿々《まん/\》と湛《たゝ》へた溜池《ためいけ》の小波《さゝなみ》の上《うへ》なる家《いへ》は、掃除《さうぢ》をするでもなしに美《うつく》しい。
爾時《そのとき》は船《ふね》から陸《りく》へ渡《わた》した板《いた》が眞直《まつすぐ》になる。これを渡《わた》つて、今朝《けさ》は殆《ほとん》ど滿潮《まんてう》だつたから、與吉《よきち》は柳《やなぎ》の中《なか》で※[#「火+發」、692−5]《ぱつ》と旭《あさひ》がさす、黄金《こがね》のやうな光線《くわうせん》に、其《その》罪《つみ》のない顏《かほ》を照《て》らされて仕事《しごと》に出《で》た。
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