を渡《わた》ると、岸《きし》から板《いた》を渡《わた》した船《ふね》がある、板《いた》を渡《わた》つて、苫《とま》の中《なか》へ出入《でいり》をするので、此《この》船《ふね》が與吉《よきち》の住居《すまひ》。で干潮《かんてう》の時《とき》は見《み》るも哀《あはれ》で、宛然《さながら》洪水《でみづ》のあとの如《ごと》く、何時《いつ》棄《す》てた世帶道具《しよたいだうぐ》やら、缺擂鉢《かけすりばち》が黒《くろ》く沈《しづ》むで、蓬《おどろ》のやうな水草《みづくさ》は波《なみ》の隨意《まに/\》靡《なび》いて居《ゐ》る。この水草《みづくさ》はまた年《とし》久《ひさ》しく、船《ふね》の底《そこ》、舷《ふなばた》に搦《から》み附《つ》いて、恰《あたか》も巖《いはほ》に苔蒸《こけむ》したかのやう、與吉《よきち》の家《いへ》をしつかりと結《ゆは》へて放《はな》しさうにもしないが、大川《おほかは》から汐《しほ》がさして來《く》れば、岸《きし》に茂《しげ》つた柳《やなぎ》の枝《えだ》が水《みづ》に潛《くゞ》り、泥《どろ》だらけな笹《さゝ》の葉《は》がぴた/\と洗《あら》はれて、底《そこ》が見《み》えなく
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