がほ》、五分刈《ごぶがり》に向顱卷《むかうはちまき》、三尺帶《さんじやくおび》を前《まへ》で結《むす》んで、南《なん》の字《じ》を大《おほき》く染拔《そめぬ》いた半被《はつぴ》を着《き》て居《ゐ》る、これは此處《こゝ》の大家《たいけ》の仕着《しきせ》で、挽《ひ》いてる樟《くすのき》も其《そ》の持分《もちぶん》。
 未《ま》だ暑《あつ》いから股引《もゝひき》は穿《は》かず、跣足《はだし》で木屑《きくづ》の中《なか》についた膝《ひざ》、股《もゝ》、胸《むね》のあたりは色《いろ》が白《しろ》い。大柄《おほがら》だけれども肥《ふと》つては居《を》らぬ、ならば袴《はかま》でも穿《は》かして見《み》たい。與吉《よきち》が身體《からだ》を入《い》れようといふ家《いへ》は、直《すぐ》間近《まぢか》で、一|町《ちやう》ばかり行《ゆ》くと、袂《たもと》に一|本《ぽん》暴風雨《あらし》で根返《ねがへ》して横樣《よこざま》になつたまゝ、半《なか》ば枯《か》れて、半《なか》ば青々《あを/\》とした、あはれな銀杏《いてふ》の矮樹《わいじゆ》がある、橋《はし》が一個《ひとつ》。其《そ》の澁色《しぶいろ》の橋《はし》
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