《ふへい》の獨言《つぶやき》である。
船頭《せんどう》、馬方《うまかた》、木樵《きこり》、機業場《はたおりば》の女工《ぢよこう》など、あるが中《なか》に、此《こ》の木挽《こびき》は唄《うた》を謠《うた》はなかつた。其《そ》の木挽《こびき》の與吉《よきち》は、朝《あさ》から晩《ばん》まで、同《おな》じことをして木《き》を挽《ひ》いて居《ゐ》る、默《だま》つて大鋸《おほのこぎり》を以《もつ》て巨材《きよざい》の許《もと》に跪《ひざまづ》いて、そして仰《あふ》いで禮拜《らいはい》する如《ごと》く、上《うへ》から挽《ひ》きおろし、挽《ひ》きおろす。此《この》度《たび》のは、一昨日《をとゝひ》の朝《あさ》から懸《かゝ》つた仕事《しごと》で、ハヤ其《その》半《なかば》を挽《ひ》いた。丈《たけ》四|間半《けんはん》、小口《こぐち》三|尺《じやく》まはり四角《しかく》な樟《くすのき》を眞二《まつぷた》つに割《わ》らうとするので、與吉《よきち》は十七の小腕《こうで》だけれども、此《この》業《わざ》には長《た》けて居《ゐ》た。
目鼻立《めはなだち》の愛《あい》くるしい、罪《つみ》の無《な》い丸顏《まる
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