さかさま》に落《お》ちたと思《おも》つて、小屋《こや》の中《なか》から轉《ころ》がり出《だ》した。
「大變《たいへん》だ、大變《たいへん》だ。」
「あれ! お聞《き》き、」と涙聲《なみだごゑ》で、枕《まくら》も上《あが》らぬ寢床《ねどこ》の上《うへ》の露草《つゆくさ》の、がツくりとして仰向《あをむ》けの淋《さびし》い素顏《すがほ》に紅《べに》を含《ふく》んだ、白《しろ》い頬《ほゝ》に、蒼《あを》みのさした、うつくしい、妹《いもうと》の、ばさ/\した天神髷《てんじんまげ》の崩《くづ》れたのに、淺黄《あさぎ》の手絡《てがら》が解《と》けかゝつて、透通《すきとほ》るやうに眞白《まつしろ》で細《ほそ》い頸《うなじ》を、膝《ひざ》の上《うへ》に抱《だ》いて、抱占《かゝへし》めながら、頬摺《ほゝずり》していつた。お品《しな》が片手《かたて》にはしつかりと前刻《さつき》の手紙《てがみ》を握《にぎ》つて居《ゐ》る。
「ねえ、ねえ、お聞《き》きよ、あれ、柳《りう》ちやん――柳《りう》ちやん――しつかりおし。お手紙《てがみ》にも、そこらの材木《ざいもく》に枝葉《えだは》がさかえるやうなことがあつたら、夫婦
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