つかゝへ》もあらうといふ幹《みき》に注連繩《しめなは》を張《は》つた樟《くすのき》の大樹《だいじゆ》の根《ね》に、恰《あたか》も山《やま》の端《は》と思《おも》ふ處《ところ》に、しツきりなく降《ふ》りかゝる翠《みどり》の葉《は》の中《なか》に、落《お》ちて落《お》ち重《かさ》なる葉《は》の上《うへ》に、あたりは眞暗《まつくら》な處《ところ》に、蟲《むし》よりも小《ちひさ》な身體《からだ》で、この大木《たいぼく》の恰《あたか》も其《そ》の注連繩《しめなは》の下《した》あたりに鋸《のこぎり》を突《つき》さして居《ゐ》るのに心着《こゝろづ》いて、恍惚《うつとり》として目《め》を※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みは》つたが、氣《き》が遠《とほ》くなるやうだから、鋸《のこぎり》を拔《ぬ》かうとすると、支《つか》へて、堅《かた》く食入《くひい》つて、微《かす》かにも動《うご》かぬので、はツと思《おも》ふと、谷々《たに/″\》、峰々《みね/\》、一陣《いちぢん》轟《ぐわう》!と渡《わた》る風《かぜ》の音《おと》に吃驚《びつくり》して、數千仞《すうせんじん》の谷底《たにそこ》へ、眞倒《まつ
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