てる足《あし》の間《あひだ》に落溜《おちたま》つた、堆《うづたか》い、木屑《きくづ》の積《つも》つたのを、樟《くすのき》の血《ち》でないかと思《おも》つてゾツとした。
 今《いま》まで其《その》上《うへ》について暖《あたゝか》だつた膝頭《ひざがしら》が冷々《ひや/\》とする、身體《からだ》が濡《ぬ》れはせぬかと疑《うたが》つて、彼處此處《あちこち》袖《そで》襟《えり》を手《て》で拊《はた》いて見《み》た。仕事最中《しごとさいちう》、こんな心持《こゝろもち》のしたことは始《はじ》めてである。
 與吉《よきち》は、一人《ひとり》谷《たに》のドン底《ぞこ》に居《ゐ》るやうで、心細《こゝろぼそ》くなつたから、見透《みす》かす如《ごと》く日《ひ》の光《ひかり》を仰《あふ》いだ。薄《うす》い光線《くわうせん》が屋根板《やねいた》の合目《あはせめ》から洩《も》れて、幽《かす》かに樟《くす》に映《うつ》つたが、巨大《きよだい》なるこの材木《ざいもく》は唯《たゞ》單《たん》に三尺角《さんじやくかく》のみのものではなかつた。
 與吉《よきち》は天日《てんぴ》を蔽《おほ》ふ、葉《は》の茂《しげ》つた五抱《い
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