又《また》この偉大《ゐだい》なる樟《くす》の殆《ほとん》ど神聖《しんせい》に感《かん》じらるゝばかりな巨材《きよざい》を仰《あふ》ぐ。
 高《たか》い屋根《やね》は、森閑《しんかん》として日中《ひなか》薄暗《うすぐら》い中《なか》に、ほの/″\と見《み》える材木《ざいもく》から又《また》ぱら/\と、ぱら/\と、其處《そこ》ともなく、鋸《のこぎり》の屑《くづ》が溢《こぼ》れて落《お》ちるのを、思《おも》はず耳《みゝ》を澄《す》まして聞《き》いた。中央《ちうあう》の木目《もくめ》から渦《うづま》いて出《で》るのが、池《いけ》の小波《さゝなみ》のひた/\と寄《よ》する音《おと》の中《なか》に、隣《となり》の納屋《なや》の石《いし》を切《き》る響《ひゞき》に交《まじ》つて、繁《しげ》つた葉《は》と葉《は》が擦合《すれあ》ふやうで、たとへば時雨《しぐれ》の降《ふ》るやうで、又《また》無數《むすう》の山蟻《やまあり》が谷《たに》の中《なか》を歩行《ある》く跫音《あしおと》のやうである。
 與吉《よきち》はとみかうみて、肩《かた》のあたり、胸《むね》のあたり、膝《ひざ》の上《うへ》、跪《ひざまづ》い
前へ 次へ
全46ページ中41ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング