》く。
 これは彌六《やろく》といつて、與吉《よきち》の父翁《ちゝおや》が年來《ねんらい》の友達《ともだち》で、孝行《かうかう》な兒《こ》が仕事《しごと》をしながら、病人《びやうにん》を案《あん》じて居《ゐ》るのを知《し》つて居《ゐ》るから、例《れい》として毎日《まいにち》今時分《いまじぶん》通《とほ》りがかりに其《その》消息《せうそく》を傳《つた》へるのである。與吉《よきち》は安堵《あんど》して又《また》仕事《しごと》にかゝつた。
(父親《ちやん》は何事《なにごと》もないが、何故《なぜ》魚《さかな》を喰《た》べないのだらう。左樣《さう》だ、刺身《さしみ》は一|寸《すん》だめしで、鱠《なます》はぶつぶつ切《ぎり》だ、魚《うを》の煮《に》たのは、食《た》べると肉《にく》がからみついたまゝ頭《あたま》に繋《つなが》つて、骨《ほね》が殘《のこ》る、彼《あ》の皿《さら》の中《なか》の死骸《しがい》に何《ど》うして箸《はし》がつけられようといつて身震《みぶるひ》をする、まつたくだ。そして魚《さかな》ばかりではない、柳《やなぎ》の葉《は》も食切《くひき》ると痛《いた》むのだ、)と思《おも》ひ/\、
前へ 次へ
全46ページ中40ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング