繰《あやつ》つて、畫《ゑ》の如《ごと》く漕《こ》いで來《く》る、筏《いかだ》は恰《あたか》も人《ひと》を乘《の》せて、油《あぶら》の上《うへ》を辷《すべ》るやう。
する/\と向《むか》うへ流《なが》れて、横《よこ》ざまに近《ちか》づいた、細《ほそ》い黒《くろ》い毛脛《けずね》を掠《かす》めて、蒼《あを》い水《みづ》の上《うへ》を鴎《かもめ》が弓形《ゆみなり》に大《おほ》きく鮮《あざや》かに飛《と》んだ。
十
「與太坊《よたばう》、父爺《ちやん》は何事《なにごと》もねえよ。」と、池《いけ》の眞中《まんなか》から聲《こゑ》を懸《か》けて、おやぢは小屋《こや》の中《なか》を覗《のぞ》かうともせず、爪《つま》さきは小波《さゝなみ》を浴《あ》ぶるばかり沈《しづ》むだ筏《いかだ》を棹《さを》さして、此《この》時《とき》また中空《なかぞら》から白《しろ》い翼《つばさ》を飜《ひるがへ》して、ひら/\と落《おと》して來《き》て、水《みづ》に姿《すがた》を宿《やど》したと思《おも》ふと、向《むか》うへ飛《と》んで、鴎《かもめ》の去《さ》つた方《かた》へ、すら/\と流《なが》して行《ゆ
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