》を手元《てもと》に引《ひ》いた。木屑《きくづ》は極《きは》めて細《こま》かく、極《きは》めて輕《かる》く、材木《ざいもく》の一處《ひとところ》から湧《わ》くやうになつて、肩《かた》にも胸《むね》にも膝《ひざ》の上《うへ》にも降《ふ》りかゝる。トタンに向《むか》うざまに突出《つきだ》して腰《こし》を浮《う》かした、鋸《のこぎり》の音《おと》につれて、又《また》時雨《しぐれ》のやうな微《かすか》な響《ひゞき》が、寂寞《せきばく》とした巨材《きよざい》の一方《いつぱう》から聞《きこ》えた。
 柄《え》を握《にぎ》つて、挽《ひ》きおろして、與吉《よきち》は呼吸《いき》をついた。
(左樣《さう》だ、魚《さかな》の死骸《しがい》だ、そして骨《ほね》が頭《あたま》に繋《つな》がつたまゝ、皿《さら》の中《なか》に殘《のこ》るのだ、)
 と思《おも》ひながら、絶《た》えず拍子《ひやうし》にかゝつて、伸縮《のびちゞみ》に身體《からだ》の調子《てうし》を取《と》つて、手《て》を働《はたら》かす、鋸《のこぎり》が上下《じやうげ》して、木屑《きくづ》がまた溢《こぼ》れて來《く》る。
(何故《なぜ》だらう、これ
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