》へかけて、透間《すきま》もなく亂杭《らんぐひ》を打《う》つて、數限《かずかぎり》もない材木《ざいもく》を水《みづ》のまゝに浸《ひた》してあるが、彼處《かしこ》へ五|本《ほん》、此處《こゝ》へ六|本《ぽん》、流寄《ながれよ》つた形《かたち》が判《はん》で印《お》した如《ごと》く、皆《みな》三方《さんぱう》から三《みつ》ツに固《かたま》つて、水《みづ》を三角形《さんかくけい》に區切《くぎ》つた、あたりは廣《ひろ》く、一面《いちめん》に早苗田《さなへだ》のやうである。この上《うへ》を、時々《とき/″\》ばら/\と雀《すゞめ》が低《ひく》う。

        九

 其《その》他《た》に此處《こゝ》で動《うご》いてるものは與吉《よきち》が鋸《のこぎり》に過《す》ぎなかつた。
 餘《あま》り靜《しづ》かだから、しばらくして、又《また》しばらくして、樟《くすのき》を挽《ひ》く毎《ごと》にぼろ/\と落《お》つる木屑《きくづ》が判然《はつきり》聞《きこ》える。
(父親《ちやん》は何故《なぜ》魚《さかな》を食《た》べないのだらう、)とおもひながら膝《ひざ》をついて、伸上《のびあが》つて、鋸《のこぎり
前へ 次へ
全46ページ中34ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング