た臺《だい》に寄《よ》せかけたのが突立《つツた》つて、殆《ほとん》ど屋根裏《やねうら》に屆《とゞ》くばかり。この根際《ねぎは》に膝《ひざ》をついて、伸上《のびあが》つては挽《ひ》き下《お》ろし、伸上《のびあが》つては挽《ひ》き下《お》ろす、大鋸《おほのこぎり》の齒《は》は上下《うへした》にあらはれて、兩手《りやうて》をかけた與吉《よきち》の姿《すがた》は、鋸《のこぎり》よりも小《ちひ》さいかのやう。
 小屋《こや》の中《うち》には單《たゞ》こればかりでなく、兩傍《りやうわき》に堆《うづたか》く偉大《ゐだい》な材木《ざいもく》を積《つ》んであるが、其《そ》の嵩《かさ》は與吉《よきち》の丈《たけ》より高《たか》いので、纔《わづか》に鋸屑《おがくづ》の降積《ふりつも》つた上《うへ》に、小《ちひ》さな身體《からだ》一《ひと》ツ入《い》れるより他《ほか》に餘地《よち》はない。で恰《あたか》も材木《ざいもく》の穴《あな》の底《そこ》に跪《ひざまづ》いてるに過《す》ぎないのである。
 背後《うしろ》は突拔《つきぬ》けの岸《きし》で、こゝにも地《つち》と一面《いちめん》な水《みづ》が蒼《あを》く澄《す
前へ 次へ
全46ページ中30ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング