頬《かたほ》に笑《ゑみ》を含《ふく》むで、堪《たま》らないといつたやうな聲《こゑ》で、
「柳《りう》ちやん、來《き》たよ!」といふが疾《はや》いか、横《よこ》ざまに驅《か》けて入《い》る、柳腰《やなぎごし》、下駄《げた》が脱《ぬ》げて、足《あし》の裏《うら》が美《うつく》しい。
八
與吉《よきち》が仕事場《しごとば》の小屋《こや》に入《はひ》ると、例《れい》の如《ごと》く、直《す》ぐ其《その》まゝ材木《ざいもく》の前《まへ》に跪《ひざまづ》いて、鋸《のこぎり》の柄《え》に手《て》を懸《か》けた時《とき》、配達夫《はいたつふ》は、此處《こゝ》の前《まへ》を横切《よこぎ》つて、身《み》を斜《なゝめ》に、波《なみ》に搖《ゆ》られて流《なが》るゝやうな足取《あしどり》で、走《はし》り去《さ》つた。
與吉《よきち》は見《み》も遣《や》らず、傍目《わきめ》も觸《ふ》らないで挽《ひ》きはじめる。
巨大《きよだい》なる此《こ》の樟《くすのき》を濡《ぬ》らさないために、板屋根《いたやね》を葺《ふ》いた、小屋《こや》の高《たか》さは十|丈《ぢやう》もあらう、脚《あし》の着《つ》い
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