み》てくんねえ、眞個《ほんと》に肴《さかな》ツ氣《け》が無《な》くツちやあ、臺《だい》なし身體《からだ》が弱《よわ》るツていふんだもの。」
「何故《なぜ》父上《おとつさん》は腥《なまぐさ》をお食《あが》りぢやあないのだね。」
 與吉《よきち》の眞面目《まじめ》なのに釣込《つりこ》まれて、笑《わら》ふことの出來《でき》なかつたお品《しな》は、到頭《たうとう》骨《ほね》のある豆腐《とうふ》の注文《ちうもん》を笑《わら》はずに聞《き》き濟《す》ました、そして眞顏《まがほ》で尋《たづ》ねた。
「えゝ、其《その》何《なん》だつて、物《もの》をこそ言《い》はねえけれど、目《め》もあれば、口《くち》もある、それで生白《なまじろ》い色《いろ》をして、蒼《あを》いものもあるがね、煮《に》られて皿《さら》の中《なか》に横《よこ》になつた姿《すがた》てえものは、魚々《さかな/\》と一口《ひとくち》にやあいふけれど、考《かんが》へて見《み》りやあ生身《なまみ》をぐつ/\煮着《につ》けたのだ、尾頭《をかしら》のあるものの死骸《しがい》だと思《おも》ふと、氣味《きみ》が惡《わる》くツて食《た》べられねえツて、左樣
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