らないんだ。ねえ、」
「あれだ、」とお品《しな》は目《め》を※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みは》つて、
「まあ、勿體《もつたい》ないわねえ、私達《わたしたち》に何《なん》のお前《まへ》さん……」といひかけて、つく/″\瞻《みまも》りながら、お品《しな》はづツと立《た》つて、與吉《よきち》に向《むか》ひ合《あ》ひ、其《そ》の襷懸《たすきが》けの綺麗《きれい》な腕《かひな》を、兩方《りやうはう》大袈裟《おほげさ》に振《ふ》つて見《み》せた。
「かうやつて威張《ゐば》つてお在《いで》よ。」
「威張《ゐば》らなくツたつて、何《なに》も、威張《ゐば》らなくツたつて構《かま》はないから、父爺《ちやん》が魚《さかな》を食《く》つてくれると可《い》いけれど、」と何《なん》と思《おも》つたか與吉《よきち》はうつむいて悄《しを》れたのである。
「何《ど》うしたんだね、又《また》餘計《よけい》に惡《わる》くなつたの。」と親切《しんせつ》にも優《やさ》しく眉《まゆ》を顰《ひそ》めて聞《き》いた。
「餘計《よけい》に惡《わる》くなつて堪《たま》るもんか、此《この》節《せつ》あ心持《こゝろもち》が快
前へ 次へ
全46ページ中21ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング