《ぞん》じます。」と、罪《つみ》のない口《くち》の利《き》きやうである。
「ほゝゝ、何《なに》をいつてるのさ。」
「何《なに》がよ。」
「だつてお前樣《まへさん》はお客樣《きやくさま》ぢやあないかね、お客樣《きやくさま》なら私《わたし》ン處《ところ》の旦那《だんな》だね、ですから、あの、毎度《まいど》難有《ありがた》う存《ぞん》じます。」と柳《やなぎ》に手《て》を縋《すが》つて半身《はんしん》を伸出《のびで》たまゝ、胸《むね》と顏《かほ》を斜《なゝ》めにして、與吉《よきち》の顏《かほ》を差覗《さしのぞ》く。
 與吉《よきち》は極《きまり》の惡《わる》さうな趣《おもむき》で、
「お客樣《きやくさま》だつて、あの、私《わたし》は木挽《こびき》の小僧《こぞう》だもの。」
 と手眞似《てまね》で見《み》せた、與吉《よきち》は兩手《りやうて》を突出《つきだ》してぐつと引《ひ》いた。
「かうやつて、かう挽《ひ》いてるんだぜ、木挽《こびき》の小僧《こぞう》だぜ。お前樣《まへさん》はおかみさんだらう、柳屋《やなぎや》のおかみさんぢやねえか、それ見《み》ねえ、此方《こつち》でお辭儀《じぎ》をしなけりやな
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