といふ。
濡《ぬ》れた手《て》を間近《まぢか》な柳《やなぎ》の幹《みき》にかけて半身《はんしん》を出《だ》した、お品《しな》は與吉《よきち》を見《み》て微笑《ほゝゑ》むだ。
土間《どま》は一面《いちめん》の日《ひ》あたりで、盤臺《はんだい》、桶《をけ》、布巾《ふきん》など、ありつたけのもの皆《みな》濡《ぬ》れたのに、薄《うす》く陽炎《かげろふ》のやうなのが立籠《たちこ》めて、豆腐《とうふ》がどんよりとして沈《しづ》んだ、新木《あらき》の大桶《おほをけ》の水《みづ》の色《いろ》は、薄《うす》ら蒼《あを》く、柳《やなぎ》の影《かげ》が映《うつ》つて居《ゐ》る。
「晩方《ばんがた》又《また》來《く》るんだ。」
お品《しな》は莞爾《につこり》しながら、
「難有《ありがた》う存《ぞん》じます、」故《わざ》と慇懃《いんぎん》にいつた。
つか/\と行懸《ゆきか》けた與吉《よきち》は、これを聞《き》くと、あまり自分《じぶん》の素氣《そつけ》なかつたのに氣《き》がついたか、小戻《こもど》りして眞顏《まがほ》で、眼《め》を一《ひと》ツ瞬《しばだた》いて、
「えゝ、毎度《まいど》難有《ありがた》う存
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