ト日《ひ》があたつて暖《あた》たかさうな、明《あかる》い腰障子《こししやうじ》の内《うち》に、前刻《さつき》から靜《しづ》かに水《みづ》を掻※[#「えんにょう+囘」、第4水準2−12−11]《かきまは》す氣勢《けはひ》がして居《ゐ》たが、ばつたりといつて、下駄《げた》の音《おと》。
「與吉《よきち》さん、仕事《しごと》にかい。」
 と婀娜《あだ》たる聲《こゑ》、障子《しやうじ》を開《あ》けて顏《かほ》を出《だ》した、水色《みづいろ》の唐縮緬《たうちりめん》を引裂《ひつさ》いたまゝの襷《たすき》、玉《たま》のやうな腕《かひな》もあらはに、蜘蛛《くも》の圍《ゐ》を絞《しぼ》つた浴衣《ゆかた》、帶《おび》は占《し》めず、細紐《ほそひも》の態《なり》で裾《すそ》を端折《はしよ》つて、布《ぬの》の純白《じゆんぱく》なのを、短《みじ》かく脛《はぎ》に掛《か》けて甲斐々々《かひ/″\》しい。
 齒《は》を染《そ》めた、面長《おもなが》の、目鼻立《めはなだち》はつきりとした、眉《まゆ》は落《おと》さぬ、束《たば》ね髮《がみ》の中年増《ちうどしま》、喜藏《きざう》の女房《にようばう》で、お品《しな》
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