絞《つのしぼり》の手絡《てがら》を弛《ゆる》う大《おほ》きくかけたが、病氣《びやうき》であらう、弱々《よわ/\》とした後姿《うしろすがた》。
 見透《みとほし》の裏《うら》は小庭《こには》もなく、すぐ隣屋《となり》の物置《ものおき》で、此處《こゝ》にも犇々《ひし/\》と材木《ざいもく》が建重《たてかさ》ねてあるから、薄暗《うすぐら》い中《なか》に、鮮麗《あざやか》な其《その》淺黄《あさぎ》の手絡《てがら》と片頬《かたほ》の白《しろ》いのとが、拭込《ふきこ》むだ柱《はしら》に映《うつ》つて、ト見《み》ると露草《つゆぐさ》が咲《さ》いたやうで、果敢《はか》なくも綺麗《きれい》である。
 與吉《よきち》はよくも見《み》ず、通《とほ》りがかりに、
「今日《こんにち》は、」と、聲《こゑ》を掛《か》けたが、フト引戻《ひきもど》さるゝやうにして覗《のぞ》いて見《み》た、心着《こゝろづ》くと、自分《じぶん》が挨拶《あいさつ》したつもりの婦人《をんな》はこの人《ひと》ではない。

        四

「居《ゐ》ない。」と呟《つぶや》くが如《ごと》くにいつて、其《その》まゝ通拔《とほりぬ》けようとする。
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