》える。
與吉《よきち》は父親《ちゝおや》に命《めい》ぜられて、心《こゝろ》に留《と》めて出《で》たから、岸《きし》に上《あが》ると、思《おも》ふともなしに豆腐屋《とうふや》に目《め》を注《そゝ》いだ。
柳屋《やなぎや》は淺間《あさま》な住居《すまひ》、上框《あがりがまち》を背後《うしろ》にして、見通《みとほし》の四疊半《よでふはん》の片端《かたはし》に、隣家《となり》で帳合《ちやうあひ》をする番頭《ばんとう》と同一《おなじ》あたりの、柱《はしら》に凭《もた》れ、袖《そで》をば胸《むね》のあたりで引《ひ》き合《あ》はせて、浴衣《ゆかた》の袂《たもと》を折返《をりかへ》して、寢床《ねどこ》の上《うへ》に坐《すわ》つた膝《ひざ》に掻卷《かいまき》を懸《か》けて居《ゐ》る。背《うしろ》には綿《わた》の厚《あつ》い、ふつくりした、竪縞《たてじま》のちやん/\を着《き》た、鬱金木綿《うこんもめん》の裏《うら》が見《み》えて襟脚《えりあし》が雪《ゆき》のやう、艶氣《つやけ》のない、赤熊《しやぐま》のやうな、ばさ/\した、餘《あま》るほどあるのを天神《てんじん》に結《ゆ》つて、淺黄《あさぎ》の角
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