ので、詮《せん》ずるに、蛇《へび》は進《すゝ》んで衣《ころも》を脱《ぬ》ぎ、蝉《せみ》は榮《さか》えて殼《から》を棄《す》てる、人《ひと》と家《いへ》とが、皆《みな》他《た》の光榮《くわうえい》あり、便利《べんり》あり、利益《りえき》ある方面《はうめん》に向《むか》つて脱出《ぬけだ》した跡《あと》には、此《この》地《ち》のかゝる俤《おもかげ》が、空蝉《うつせみ》になり脱殼《ぬけがら》になつて了《しま》ふのである。
敢《あへ》て未來《みらい》のことはいはず、現在《げんざい》既《すで》に其《そ》の姿《すがた》になつて居《ゐ》るのではないか、脱《ぬ》け出《だ》した或者《あるもの》は、鳴《な》き、且《か》つ飛《と》び、或者《あるもの》は、走《はし》り、且《か》つ食《くら》ふ、けれども衣《きぬ》を脱《ぬ》いで出《で》た蛇《へび》は、殘《のこ》した殼《から》より、必《かなら》ずしも美《うつく》しいものとはいはれない。
あゝ、まぼろしのなつかしい、空蝉《うつせみ》のかやうな風土《ふうど》は、却《かへ》つてうつくしいものを産《さん》するのか、柳屋《やなぎや》に艶麗《あでやか》な姿《すがた》が見《み
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