らないんだ。ねえ、」
「あれだ、」とお品《しな》は目《め》を※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みは》つて、
「まあ、勿體《もつたい》ないわねえ、私達《わたしたち》に何《なん》のお前《まへ》さん……」といひかけて、つく/″\瞻《みまも》りながら、お品《しな》はづツと立《た》つて、與吉《よきち》に向《むか》ひ合《あ》ひ、其《そ》の襷懸《たすきが》けの綺麗《きれい》な腕《かひな》を、兩方《りやうはう》大袈裟《おほげさ》に振《ふ》つて見《み》せた。
「かうやつて威張《ゐば》つてお在《いで》よ。」
「威張《ゐば》らなくツたつて、何《なに》も、威張《ゐば》らなくツたつて構《かま》はないから、父爺《ちやん》が魚《さかな》を食《く》つてくれると可《い》いけれど、」と何《なん》と思《おも》つたか與吉《よきち》はうつむいて悄《しを》れたのである。
「何《ど》うしたんだね、又《また》餘計《よけい》に惡《わる》くなつたの。」と親切《しんせつ》にも優《やさ》しく眉《まゆ》を顰《ひそ》めて聞《き》いた。
「餘計《よけい》に惡《わる》くなつて堪《たま》るもんか、此《この》節《せつ》あ心持《こゝろもち》が快方《いゝはう》だつていふけれど、え、魚氣《さかなつけ》を食《く》はねえぢやあ、身體《からだ》が弱《よわ》るつていふのに、父爺《ちやん》はね、腥《なまぐさ》いものにや箸《はし》もつけねえで、豆腐《とうふ》でなくつちやあならねえツていふんだ。え、おかみさん、骨《ほね》のある豆腐《とうふ》は出來《でき》まいか。」と思出《おもひだ》したやうに唐突《だしぬけ》にいつた。
五
「おや、」
お品《しな》は與吉《よきち》がいふことの餘《あま》り突拍子《とつぴやうし》なのを、笑《わら》ふよりも先《ま》づ驚《おどろ》いたのである。
「ねえ、親方《おやかた》に聞《き》いて見《み》てくんねえ、出來《でき》さうなもんだなあ。雁《がん》もどきツて、ほら、種々《いろん》なものが入《はひ》つた油揚《あぶらあげ》があらあ、銀杏《ぎんなん》だの、椎茸《しひたけ》だの、あれだ、あの中《なか》へ、え、肴《さかな》を入《い》れて交《ま》ぜツこにするてえことあ不可《いけ》ねえのかなあ。」
「そりや、お前《まへ》さん。まあ、可《い》いやね、聞《き》いて見《み》て置《お》きませうよ。」
「あゝ、聞《き》いて見《
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