ご》を附着《くッつ》けて、頻《しき》りとその懐中《ふところ》を覗込《のぞきこ》みますのを、じろじろ見ますと、浅葱《あさぎ》の襦袢《じゅばん》が開《はだ》けまするまで、艶々《つやつや》露も垂れるげな、紅《べに》を溶いて玉にしたようなものを、溢《こぼ》れまするほど、な、貴方様《あなたさま》。」
「むむそう。」
 と考えるようにして、雑所はまた頷く。
「手前、御存じの少々|近視眼《ちかめ》で。それへこう、霞《かすみ》が掛《かか》りました工合《ぐあい》に、薄い綺麗な紙に包んで持っているのを、何か干菓子ででもあろうかと存じました処。」
「茱萸《ぐみ》だ。」と云って雑所は居直る。話がここへ運ぶのを待構えた体《てい》であった。
「で、ござりまするな。目覚める木の実で、いや、小児《こども》が夢中になるのも道理でござります。」と感心した様子に源助は云うのであった。
 青梅もまだ苦い頃、やがて、李《すもも》でも色づかぬ中《うち》は、実際|苺《いちご》と聞けば、小蕪《こかぶ》のように干乾《ひから》びた青い葉を束ねて売る、黄色な実だ、と思っている、こうした雪国では、蒼空《あおぞら》の下に、白い日で暖く蒸す茱萸
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